附属伝統建築研究所 |
|
- 遺産から創造へ -本会主催 日仏景観会議・倉吉・東京鳥取県倉吉市の木造建築群を舞台に99年に埼玉県吉田町( 現秩父市)で初開催された日仏景観会議は今回で12回目。一般参加者も巻き込んでの景観保護に関する議論が好評で、神奈川県鎌倉市や山口県萩市、三重県伊勢市など伝統的街並みなどが残る各地で聞かれてきた。
今回の舞台・倉吉にも、古くは江戸時代の木造建築が残る「倉吉市打吹玉川伝統的建造物群保存地区」がある。98年に国に選定され、10年には対象地区が拡大。本町通りに立ち並ぶ商家主屋と、地区内を流れる玉川沿いに立つ土蔵群があり、石州瓦で屋根をふいた独特の景観で知られる。落ち着いた街並みは海外ドラマのロケに使われたこともあるという。地元では倉吉町並み保存会が組織されており、倉吉の会議では同会の真田廣幸事務局長が町並みの歴史などについて講演した。 今回の会議で議論になったのは、景観問題ではしばしばテーマになる話題だが、伝統的街並みの魅力を守り伝えつつ、地域の活性化や住環境の質改善をどう図っていくかという点だ。倉吉の会議で講演の口火を切った長谷川善一国連大学協力会専務理事(鳥取短大理事)は、「景観の破壊は人間の感性の崩壊につながる」と指摘した上で、「景観の意味を議論するには文化、政治、経済、芸術などといった幅広い視野が要る」と強調した。 歴史の伝承の上に現在を積み上げて続いて講演したフランスの建築家G・ヴュルステゼン氏は、UIA(国際建築家連合)の元フランス代表で、政府の顧問建築家も務めた経験などから、フランスの都市再生制度や国と地方自治体の関係などを紹介。持続可能な発展こそがまちを活気つけると主張した。フランスの都市再生は、地元住民が再生建物に住み続けることを前提に行われ、賃貸住宅に変わった再生建物には個人向けの住宅援助措置もあるという。同氏の講演を通訳した宇田英男日仏景観会議代表は、フランスは歴史と文化を大切に扱い、行政と地域住民の共同も日本より進んでいるとの見方を示した。
日本政府アンコールワット遺跡救済チーム(JSA)の団長を務め、東日本大震災からの再生プロジェクトにも取り組んでいる中川武早大創造理工学部教授は「歴史の伝承の上に現在を積み上げることが大切だ」と指摘。伝統を継承しつつ創造的な人生を築くことが、今回の会議テーマ「遺産から創造へ」の意味ではないかと語った。また「伝統的建造物群の魅力は、観光客なんか来なくてもいいというくらいに地元の人々が誇りを持って生きることでむしろ高まるはずだ」とも述べた。 観光などの問題は、講演後に一般参加者も交えて行われたパネルディスカッションでも話題になり、「観光客がいったん来てもすぐに来なくなる。若い人が住む町にするにはどうしたらいいか」といった質問が会場から上がった。これに対し宇田氏は、「倉吉が持つ豊かな農村をもっと生かせるのでは」と答えた。「芸術がキーワードになる」との意見も出た。 誇りを持った生活が魅力を高める東京の会議では、真田氏に代わり羽生修二東海大教授が参加し、フランスの修復理念について講演。最後に行われたパネルディスカッショシでも、倉吉に住み続けるためには何をするべきか、行政、住民は倉吉の魅力をどう伝えていくべきか、住環境の質をどう改善していくのかといった問題提起がなされた。
これについて、「伝統建築にはある程度の人工的措置はやむを得ないが、下手に近代化すると人は集まらなくなる。 人間による環境変化などで失われた建築物の本来の寿命を取り戻すと いった姿勢で修復を行うべきだ」などの意見が出た。 伝統的街並みが残る地域では、観光客があふれ、交通問題が起きている所や、行き過ぎた観光化で生活の風景がなくなっている所もあるが、倉吉にはまだそうした問題はない。中川氏は「むやみに観光化を進めるのではなく、地元住民が誇りを持って生活を続けることが大切だ」とあらためて強調。一般参加者からは「これからも景観保護にまい進する。出すぎた杭は打たれない」との声も挙がった。長谷川氏も「100の愚痴より10の提案、10の提案より1の実践が必要」と行動の大切さを訴えた。 会議終了後、パネルディスカッションのコーディネーターを務めた中村光彦全日本建築士会専務理事(鳥取短大教授)は「倉吉という国内有数の伝統的建造物群と歴史を持つ地域について議論できたことは意義深い。伝統的建造物群の再生を地域の活性化に結びつけることは建築家の重大な使命であり、創造的課題として取り組んでいかなければならない」と総括した。 日刊建設工業新聞(2011年10月13日)から引用 |
|
Copyright(C) 2005 一般社団法人全日本建築士会. All rights reserved. |