附属伝統建築研究所 |
||
- 本会主催 -日越伝統木造建築会義 ベトナム・フエ日越伝統木造建築会議が初会合ベトナムに残る伝統木造建築物。その多くが高温多湿の気候によって柱や梁の傷みが激しく、存続の危機に立たされている。その対策で同じ木造建築の文化を持つ日本の伝統木造建築技術者らの知見を借りようと、ベトナムの公的機関が全日本建築士会の関係者を招き、保存・修復にかかわる専門技術者の養成や伝統技術の継承のあり方を話し合う「第1回日越伝統木造建築会議」が今月12日にベトナム中部の都市、世界遺産にも登録されている木造伝統建築集積地のトゥアティエン・フエ省で開かれた。全日本建築士会は修復に関する技術協力に前向きに検討することなどを表明した。会議ではどのような議論が繰り広げられたのか。
会場となったのは、ベトナム最後の王朝となった旧グエン朝(1802年~1945年)が拠点を置いたフエ省内の宮殿跡に残る閲是堂。ここに全日本建築士会の会員など21人と、宮殿などの歴史的建造物群を管理するフエ省の「フエ遺跡保存センター」の関係者50人以上が参集した。 ベトナム国内にはフエ省内にある宮殿建築物以外に、今も多くの伝統木造建築物が町に残る。これらを後世に伝えていくためにも、専門技術者の育成と技術の伝承がベトナムの課題になっている。ベトナム初の世界遺産となったフエの建造物群のうち、宮殿のシンボルとして今に残る午門や太和殿の保存・修復に長く携わってきた早稲田大学創造理工学部の中川武教授の協力を得て、伝統木造建築技術者集団である全日本建築士会が木造建築の振興に資する公益事業の一環として企画し、開催の運びとなったもの。
初会合となった12日の会議では、フエ遺跡保存センターのファン・タン・ハイ所長がベトナムの伝統木造建築の現状について「亜熱帯気候で長期の雨の影響で雨漏りが絶えず、柱の根本や、梁(はり)と柱の連結部の傷みが激しい」「土の床に直接、柱を構築するために地盤が沈下し、建物が傾く現象もある」と説明。修復に関してはコンクリートや鉄筋などを使ってしまう場合も多く、伝統建築物の保存や伝統技術の継承の面で課題があると窮状を訴えた。 これに対して、全日本建築士会は、伊勢神宮で20年ごとに社殿を建て替える式年遷宮の造営工事のまとめ役となる神宮式年造営庁技術総監を務める中村光彦専務理事が日本の伝統技術の継承の根元として伊勢神宮式年遷宮について説明。海老原忠夫副会長は栃木県日光市に残る旧田母沢御用邸の修復・保存事業を事例に、日本の伝統木造建築の修復技術を紹介した。
参加した理事からは、日越間の建物に使われる木材の材質に違いがあるとしながらも、建物をジャッキを使って浮かせる現代技術と、柱根接ぎの伝統技術を組み合わせて修復する技術の応用も可能との意見があったほか、重要な伝統建築物は昔のままに修復・保存する一方、伝統町家は修復とともに、観光や地域経済の振興に資する新たな活用策を付与して保存する視点も重要だとする意見があった。日本では建物の修復や保存にあたって建築歴史的建造物に必要な防災や耐震の性能を満たす必要があり、元の形を維持して保存するために、今後は制度面の考え方も検討する必要があるとベトナム側に指摘した。なお、この会議に特別参加したJICAハノイ事務所の専門スタッフである安藤勝洋氏から、ベトナムホイアン市における木造伝統建築の修復・再生に係わる事例紹介の講演も行われた。 会議後、伊橋和男副会長は「日越の伝統技術の共有から交流が始まる。大変に意義深い会合だった」と語る一方、ファン・タン・ハイ所長は「貴重な意見交換だった」と述べ、日越間で毎年一度、伝統木造建築に関する交流会議の開催や、日本側がベトナム側からの研修員の受け入れとベトナムへの技術協力を進める環境整備を整えることで覚書を交わした。今後は両者間で具体策を速やかに検討していく協議が動き出す。
|
||
Copyright(C) 2005 一般社団法人全日本建築士会. All rights reserved. |